谷亮子、引退示唆 「これからは主婦をしたい」

　
「母として…」道半ば

　「応援してくださったみなさんに感謝の気持ちでいっぱいです。自分自身の中で全力を出したので、５大会連続のメダルはうれしく思います」。試合後のインタビューで精いっぱいの笑顔を見せたが、その声には張りがなかった。

　２００５年１２月。夫のプロ野球・巨人の谷佳知との間に佳亮君を授かった。出産、育児、２年のブランク。女性としての人生を重ね「人間力というか、幅が広がった」。出産とともに宣言した「ママでも金」の軽やかな響きに世間も沸いた。女性の、というより谷亮子の可能性に期待して。

　人並みの苦しみも味わった。母乳が止まらず、乳腺炎の痛みで柔道着に袖を通せなかった時期がある。寝不足の目をこすり、家事もこなした。「お母さんってすごい」。体と心のスタミナを削る日常の中で、育ててくれた母、田村和代さんの労に頭が下がった。

　所属するトヨタ自動車には、全国の母親から手紙が届く。「私の夢を重ねて応援しています」。そんな文面に涙腺が緩む。息子は、母が自分一人のものでないことに気づき始めた。春先まで、合宿で家を出る母に泣いてぐずったのが、今は「ジュードーがんばって」。息子の自立が寂しくもあり、頼もしくもある。

　「子供もどこかでがんばっている。そう思うと勇気をもらえる」。年を取った。体力の衰えも。だが、ほかの競技者とは何かが違う。北京を駆け抜けようとした母の背中を、愛息は会場で見ていた。だが、放たれた矢もいつかは勢いを失う。

　「家族のサポートなくして、チャレンジはなかった。これからは主婦がしたい。今後に関しては自分１人では決められないが、周りのみんなと相談して決めたい。母として五輪出場できるとは夢にも思わなかった」。

　厳しい現実の前に、谷は競技者として曲がり角を迎えた。